「くっすん大黒」(町田康)①

あれこれ考えるべき作品ではないのかも知れません

「くっすん大黒」(町田康)文春文庫

ふと働くのがいやになり、
仕事を辞めて
毎日酒を飲んで暮らして三年、
妻が家を出て行った。
先程から気になるのは、
雑多な部屋の中に紛れて
転がっている金属製の大黒様。
一大決心した「自分」は、
大黒を不法投棄しにかかるが…。

数年前に出会って衝撃を受け、
そして「これは傑作だ!」と思ったものの、
どこがどのように素晴らしいか
判断がつかなかったのを
記憶しています。
それは今回再読しても同じでした。
強く引きつけられる作品です。
しかしその理由を説明するのが
難しいのです。
矛盾していますが、
町田康の作品は、
わかりやすいのに難解です。

分析を試みようとしたとき、
本作品の魅力として考えられるのは
型破りな筋書きです。
そうはいっても
大黒様の置物を処分することから
何か事件が起こることを期待して
読み進めると、実は何も起きません。

では何が起こるのか?
「自分」は次々と理不尽なことに
巻き込まれていきます。

一つは友人が見つけてきた
アルバイト先での
「おばはん」とのトラブル。
同じパート店員であるにもかかわらず、
客の対応を全て「自分」にまかせ、
一切仕事をせずに店の奥でくつろぎ、
あろうことか店の品物を
法外な安値で売り渡すよう
「自分」に迫ります。

もう一つはいかがわしい芸術家を
取材するTV関係の取材の仕事での騒動。
取材先から思うような情報が得られず
半狂乱になるディレクターに
振り回され、
結局ギャラはもらえずじまいです。

それらの顛末は確かに痛快です。
しかしその面白さに
魅せられてしまうのか、
理不尽な展開が語りかけてくる何かに
引きこまれてしまうのか、
再読後もやはり分かりませんでした。

それらと冒頭の大黒との
関連も不明です。
「神様であるはずの大黒様を
廃棄しようとした罰」では
あまりにも安直です。
「大黒がそれら理不尽なものの
象徴として描かれている」と
いうことでもなさそうです。
そもそも大黒は廃棄を免れ、
「自分」とともに
友人宅へ転がり込んだきり、最後まで
まったく登場しないのですから。

あれこれ考えるべき作品では
ないのかも知れません。
主人公である「自分」の生き方が
「考えることを
半ば放棄したもの」である以上、
本作品の鑑賞もまた「思考をことさら
必要としない」のかも知れません。

(2020.6.25)

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